私がアメリカ滞在最後の1年を過ごしたベルモントの家では、トカゲと魚がペットとして飼われていました。動物が大好きな私は毎日彼らの世話をするのが楽しみでした。
魚
グッピー
ベルモントの家に引っ越してからすぐに目についたのが、キッチンに置いてある小さな水槽でした。そこにはグッピーが一匹。サンフランシスコ時代に飼っていた魚を引っ越しで手放して以来、私はちょっぴり寂しい思いをしていたので、このグッピーを見て大喜びしました。
残念なことにこのグッピー、私がしばらく帰国している間に病気にかかってしまいました。戻ってきたときには、体がパンパンに膨れて鱗が逆立ったようになり、ほとんど横向きに倒れるようにしてフラフラと泳いでいました。可哀そうに、このグッピーは数日後に死んでしまいました。グッピーは庭の木の根元に埋めました。妙に大きく見える空っぽの水槽。そこにいたものがいなくなるって、寂しいものですね。
ベタ
大家さんはグッピーの他にベタを2匹飼っていました。実はベルモントの家に住むようになってから1か月程のあいだ、私はこのベタの存在を知りませんでした。私がそれに気づいたのは、リビングルームの掃除をしていたときでした。窓際の棚の掃除をしていると何かが目の端でふわっと動いたのでそちらを見ると、花瓶かと見間違うような細くて背の高いガラスの容器が二つ並んでおり、そのなかに一匹ずつ魚が入っていたのでした。
赤いのと青いの。どちらもお腹がペタッとくっつくくらいにやせ細っていました。
大家さんに「ここにも魚がいたんですね!すごく痩せてるけど・・」と声をかけると、彼女はすぐにやってきて「もう年をとってからねぇ」と言います。
Hey, you have other fish here! They’re so thin though…
Yeah, they are very old.
この日からベタちゃん2匹の世話も私の日課に加わることとなりました。
あまりにやせ細ったベタは、小粒の「ベタの餌」を食べることすらできませんでした。それなのに、健気にも一生懸命口を開けて食べようとするのです。
食べようとするのなら望みはあるということ。試しに餌を砕いて粉状にしたものを与えてみました。そうすると、よろよろと不器用に動きながらも何とか食べてくれました。よかった。それから毎日、砕いた餌を少しずつ与えました。
2匹はだんだんしっかり泳げるようになり、ぺったんこだったお腹も膨らんでいきました。ついには、赤いベタがガラス越しに青いのを威嚇するようにまでなったので、水槽を離れたところに置かなければならなくなりました。
ベタちゃん2匹が見事に若返ったので、大家さんは私に「動物博士」という称号(?)を与えてくれました。うん、やっぱりこの大家さん、面白い人でした。
フトアゴヒゲトカゲ
玄関を出たすぐ左に幅120センチの水槽が置いてありました。私はそこに不要なものが積み上げてあるだけだと思っていたので、さして気に留めていませんでした。ましてや、そこにトカゲが飼われているなんて想像だにしませんでした。
私がトカゲの存在を知ったのは、ベルモントの家に引っ越してから数週間もしてから。ある夜大家さんが、外から「何か」をリビングルームに持ってきたときです。
大家さんは肘まである長いビニール手袋をし、バスタオルでトカゲを抱えて走ってきました。そこにいた私たちは口をあんぐり。夏のあいだは外で、そして寒くなると室内で飼うのだそう。
それはフトアゴヒゲトカゲという体長40センチほどのトカゲでした。日本でもペットとして飼う人が多いのでご存知の方も多いと思います。
トカゲは、私たちが近づくと口を大きく開け、口の周りのトゲトゲの皮膚を逆立てて、耳の辺りを黄色くして私たちを威嚇してきました。大家さん曰く、「小さくて可愛かったから買った」のだそうですが、この様子を見た瞬間、私たちの間ではトカゲは「キケンな生き物」と認識されました。
と言いつつも、私はその翌日からトカゲの世話を日課に加えました。キケンなはずのトカゲですが、毎日見ているとどことなく可愛い。
そこである日、試しにそうっとトカゲのお腹の下から手を入れて抱え上げてみました。毎日の世話で私を覚えてくれたのか、威嚇もせずじっとしていました。
それ以来私は、家にいるときは始終トカゲと一緒に過ごしました。抱っこするとトカゲは私にしっかりしがみついていたので、慣れてくると私はトカゲを服にくっつけたまま手に物を持って歩いて移動するまでになりました。大家さんはそれを見て、「ハロウィーンのコスチュームみたいだね」と楽しそうにしていました。トカゲは人に対して威嚇することはなくなりましたが、トカゲに触ったり抱っこしたりするのは、最後まで私ひとりでした。
トカゲと過ごすようになってから、私のベルモントでの暮らしは一段と楽しくなりました。実はこのトカゲ、今も私と一緒に暮らしています。