<ある日コーヒースタンドで>
渡米して間もない頃のこと。出先でふとコーヒーが飲みたくなり、そばにあったコーヒースタンドに立ち寄りました。
まだ英語を口にすることに慣れていなかった私は、くるくるカールの髪の黒人のお姉さんに、おずおずと声をかけました。
Hi, can I get a coffee?
するとお姉さん、大きな声で聞き返すのです。
”Hot chocolate?!”
ああ、「コーヒー」というひと言すら聞き取ってもらえないのかと一瞬にして自信を失うのと同時に、お姉さんの張りのある大きな声に驚いて、私はつい “Yes.” と答えてしまいました。そしてコーヒーの代わりに甘いココアを飲んだのでした。
<一つ目のカギ:大きな声で>
意気消沈して帰宅し夫にその出来事を話すと、「声が小さかったんじゃないの?」とあっさりした答えが返ってきました。うーん、もしかしたらそうかもしれないな。私の遠慮がちなか細い声は、街の雑踏にかき消されてしまったのかもしれない。夫の言葉に私は気を取り直しました。
彼曰く、発音が少々悪くても大きな声で3回繰り返せば通じるのだそうです。ほんとかなぁと半信半疑ながらも、それ以来英語を話すときはなるだけ大きな声ではっきりと話すように努めました。それが功を奏したのか、3回まで繰り返さずとも、意味を成す英語を話しさえすれば言いたいことは通じるようになりました。
<二つ目のカギ:アクセントの位置>
とはいえ、私は個人的には今さらネイティブと同じ発音を目指してなぞいません。発音が良ければ良いに越したことはありませんが、私の耳ももう若くないし・・・(苦笑)
自分の発音を相手に伝えるのにまず必要なのは、アクセントの位置だと私は考えています。アクセントのある部分は強く、そして長く発音されます。この場所を間違ってしまうと、途端に通じにくくなります。
私はAmerican Accent Trainingという本を持っているのですが、このなかで輪ゴムを手に持ってアクセントの場所で輪ゴムを引っ張りながら練習する方法が紹介されています。例えば、ダダーダと真ん中にアクセントがある場合は、ダーの部分で輪ゴムを引っ張るという具合です。私はこれを試して、自分のアクセントが全然足りていなかったことに気づきました。英語のアクセントは、私が思っていたよりずっとずっと強いものだったのです。
<三つ目のカギ:母音>
母音もまた大事です。私が “bus”を日本語の「バス」と発音したとき、あるアメリカ人の友人が一瞬戸惑ったような表情を見せた後、”Ah, bus!”と納得していたことがありました。日本語の「あ」と「 ʌ 」は随分と違って聞こえるものなんでしょうね。
今でも私は新しい単語を目にすると、意味を調べると同時に必ず発音記号を確認し、ネットなどで実際の発音を聞くようにしています。
アクセントを大袈裟に、そして大きな声ではっきりと。そうすることで私は、日本人訛りを残しつつも、必ず通じる英語は話せるという自信を持てるようになりました。
それでも、あの日コーヒースタンドで “coffee” を聞き取ってもらえなかったことがトラウマになっているのか、いまだに coffee という単語の発音にはかなり苦手意識があります^^;
<練習すれば私たちだってちゃんと発音できるはず>
ところで、アメリカ人は声が大きいですよね。いえ、アメリカ人に限らず、日本人に比べると大きく張りのある声で話す外国人は多いように感じます。よく英語は腹式呼吸で話すから、また欧米人は日本人とは骨格が違うから、私たち日本人とは違った発声になるんだと言われます。私もそうなんだろうと思っていました。ところが、サンフランシスコで知り合った日系の男性と話すと、彼もまた張りがあってよく通る声をしていたんです。
どうやらアメリカ人は発声するときに口の奥のほうから喉にかけての部分をリラックスさせて口の中の空間を広くしているのだとか。でも、両親が日本人でアメリカ生まれの男性の発音はアメリカ人そのものだったわけですから、少なくとも骨格が違うせいで私たちに英語の発音ができないわけではないはずなのです。私たちも耳を鍛えて発音の練習をしっかりすれば、ネイティブと同じ発音で話すことができるわけですね。これ日々鍛錬ですね~。