サンフランシスコでのホテル暮らし

アメリカ暮らし
<滞在したのはレジデンシャルホテル>

私たちはいわゆる「転勤」でアメリカへ渡ったわけではなかったので、アメリカに着いてから自分たちで家探しをする必要がありました。家が見つかるまではホテル暮らしになるわけですが、そこで夫が選んだのが「レジデンシャルホテル」。どんなところかよく知らずに中へ入ってみると、私の期待した「ホテル」とはちょっと趣が違っていました。

レジデンシャル(residential)とは「居住用の」という意味。つまり、レジデンシャルホテルとは長期滞在者向けの宿泊施設です。料金を抑えてある分、施設は簡素だし部屋の掃除等も宿泊客に任されています。最初は正直ぎょっとしたのですが、実際に滞在してみるとホテルで働く人たちもそこに滞在するお客さんたちもとても温かく、慣れない海外生活を始めるに当たって、私にとっては結果的に良い場所だったなと今では思います。

<働く人たちも宿泊客>

面白いことに、そこで働く人たちもそのホテルの宿泊客でした。食堂で料理を作っている黒人のオジサンは、ちょっと無愛想だったけれどとても親切で、私のつたない英語を一生懸命理解しようとしてくれたし、私が困っているのに気づくとわざわざ厨房の奥から出てきて助けてくれたものでした。フロントにいるヒスパニック系の若いお兄さん(レックスという名前だったっけ)は、「お腹がいっぱい」は、”I’m full.” だけでなく “I’m stuffed.” とも言えることを教えてくれました。ベッドメイキングをしてくれる女性は、ベッドや机、スタンドライトなどを私好みの位置に移動して、ちょっとした部屋の模様替えをしてくれました。

<そこに「住んで」いる人たち>

何日か過ごすうちに、食事時によく顔を合わせる数人のお客さんたちとも色んな話をするようになり、滞在しているお客さんのうちの幾人かはそのホテルに住んでいることが分かってきました。

ある日、仲良くなったギター弾きのオジサンが、夫と私を部屋に招待してくれました。彼の部屋はすっかり居心地のいい空間に作り替えられており、ホテルの他人行儀な雰囲気はどこにも残っていませんでした。彼のギターの演奏を聴かせてもらいながら、私は何とも不思議な時間を過ごしました。

よく見かけるお客さんのなかに、二人ほど車椅子の年配の女性がいました。彼らは朝食のときにパンやジャムなどを少し余分に受け取って、それを部屋に持ち帰っていました。そうすれば彼らは暑かったり雨が降ったりするなかを車椅子でわざわざランチのために出かけなくても済むのです。もちろん、表向きはそんなことをしてはいけないことになっていたに違いありませんが、誰もそれを咎めることはなく、困っている人を労わるような優しい空気がそこにはありました。

<そこにはひとつのコミュニティがあった>

ホテルに住みながらスタッフとして働く人、そこに住みながら外へ働きに出る人、そして毎日をそこで過ごす人。彼らは毎日顔を合わせ、言葉を交わし、お互いに助け合って生活していました。私たちがそこに滞在したのは1か月ほどの期間でしたが、彼らは私たちを快く受け入れてくれました。当時の私は精神的にまったく余裕がなく、ホテルの施設などに関して不満を覚えることも多かったのですが、今振り返ると、夫のいない昼間の時間をあのホテルで過ごしたからこそ乗り越えられた1か月間だったのかなという気もします。

レジデンシャルホテル。施設は簡素だし時には壊れている部分があったりもします。掃除などが細かいところまで行き届いてないこともあります。でも、料金は安いし普通のホテルではできない体験もできます。好みは分かれると思いますが、長期滞在の予定のある方はチョイスに入れてみてはいかがでしょう。

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